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『川柳入門 はじめのはじめ』(田口麦彦/飯塚書店)感想レビュー ~自分の思いを自分のことばで十七音につづる

2020年11月21日土曜日

川柳 本の感想

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川柳入門 はじめのはじめ

川柳のはじまりから作り方まで。川柳の入門書「川柳入門 はじめのはじめ」(田口麦彦/飯塚書店)です。

この本では、多数の川柳が取り上げられ、それぞれの句に対して解説がなされています。様々な視点で分類されていますので、その分類ごとの解説を読むのが面白い部分かと思います。

川柳入門 はじめのはじめ

内容

第一章:川柳とは

川柳という名称は江戸時代の「柄井川柳」という人の名前から付けられています。柄井川柳は興行的文芸の選者としてとくに有名だったことから、その俳号緑亭川柳の「川柳」が文芸の名前として定着していきました。

また、俳句は「有季・定形(五・七・五)」の句ですが、川柳は「無季・定形(五・七・五)」の形をとる句といったような俳句と川柳の違いや、川柳の作り方などについて説明がなされます。そのあたりについては別の記事に記載していますので、ここでは割愛します。

さらに川柳の型別に句を何種類か上げ、それぞれの句について解説があります。

<六大家の作品から>
ぬぎすてて うちが一番 よいという(岸本 水府)

<文語と口語>
かぶと虫 死んだ軽さに なっている(大山 竹二)

<人間を詠む>
月はまるく 六法全書 ふところに(柴田 午朗)

<社会を詠む>
役人の子はにぎにぎをよく覚え(柳多留 初篇)

第二章:何をどう詠むか

この章では川柳のテーマについて語られます。

<ジュニア作品>
園児、小学生、中学生、高校生のそれぞれの作品に対し、その年代における特徴が解説されます。

身の周りのことを自分の目で見て、それを素直に表現するという点において子どもは秀でている、大人が扱うと綺麗に形よく仕上げようという気持ちが働いてしまい、たましいのほうがぬけがらになってしまう、などと耳の痛い内容が記載されています。

かかしさん いねをまもって ごくろうさん(園児)

先生の あだ名はぼくが 名付け親(高校生)

川柳雑誌のジュニア専用紙面「かもしからんど」を受け持つ工藤寿久講師の子どもへの思いやりに満ちた川柳がこの章に相応しいです。

麦を踏む この子もやがて 麦ならん(工藤 寿久)

<情け・飢え>
親子の情愛、夫婦の情、友情、人類愛など人の情けにまつわる川柳、心の飢えにまつわる川柳についての解説がされています。

子は母になり 娘にかざる 桃の花(下川 紋十郎)

<愛・憎しみ>
男女の愛だけでなく、友人愛、隣人愛、人類愛、様々なかたちの愛があること、憎しみの感情の複雑さなどについて語られます。

お湯沸かす ようにふつうに 愛せたら(坂田 麗子)

仲間意識 一人のユダが 突き出せぬ(川口 弘生)

<ユーモア・軽み>
明治の新川柳以降、川柳の文芸としての特性を「うがち」「おかしみ」「軽み」として「川柳の三大要素」と呼ぶようになります。これは、古川柳、特に初代川柳点「柳多留」の特徴をぬきだしてまとめられたものと言われています。
「うがち」「おかしみ」「軽み」についてはこちらの記事にまとめています。
以下の句などはうがち、おかしみ、軽みがバランスよく入っていて何度でも詠みたくなります。

どちらかへ つかねばならぬ 手をあげる(徳田 佳周)

<諷刺・時事>
川柳の特質は社会詠にあると記載されています。その時代に生きていたという瞬間をシャープに切り取って断面を提示することができるのが川柳であると語られます。

「今」を写し取るために「ポイントを絞って描く」「他人からの借り物ではなく自分の感性で訴える」ことが大切なのです。

<震災を詠む>
「大震災を詠む川柳 101人それぞれの3.11」(川柳宮城野社編・河北新報出版センター)の句が解説と共に紹介されます。たった17文字なのに心の痛みが伝わってきます。
大震災を詠む川柳―101人それぞれの3・11 (河北選書)

目を皿に 安否情報 確かめる(雫石 隆子)

第三章:川柳との出会い

川柳には「人間が生きていくとはどういうことなのだろう」と問いかける強い「こころざし」が必要です。俳句や短歌と比べて決して文芸価値が低いものではありません。

そのような話に続け、海外作家、子育て中、職場、病院、家庭など色々な立場にいる人々が作った川柳の紹介がなされます。様々な立場、様々な見方で作られた川柳を通し、私たちは素晴らしい出会いの中にいるといえるのです。

死に場所に もう戸惑わぬ 市民権(サンジエゴ 藤井 孫六)

第四章:実作の手法

川柳の作り方についての章です。作り方といっても具体的な形式を説くのではなく、「フィーリング」「コピーライターから学ぶ」「フィクションに遊ぶ」といったような身の周りにある素晴らしい文章や自分の感性、人生で経験してきたことなどをアンテナを高くしてとらえていこうといったことが書かれています。「自分の思いを、自分のことばで、十七音につづる」ことが終極の目的であり、その目的を見失わずにまっすぐ突き進んでほしいとの願いを込めて。

人生に 意味などないよ 飲みたまえ(台信 碌郎)

第五章:川柳は時代とともに

川柳、俳句、短歌の似ている点、異なる点についての図式が載っています。とても分かりやすい図式です。「川柳と俳句はどこが違うのか」という疑問に対しての解であり、また、決して同じものにはなっていかないという展望が書かれています。個性化、多様化していく時代の中で、複眼で物事を見据えていくことが必要であると未知にたいする挑戦がうたわれています。

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